2016年9月。
『夏を振り返る。』ー 体験入部、皇后杯予選 ー
前回の宣言通り、夏休み中の体験入部を検証し、皇后杯予選を振り返る。
今年は例年以上に問い合わせが多い。7月には事前問い合わせのあった中学生だけ練習参加をしてもらった。四日間で11名。複数日程参加した者もいる。大半はクラブチーム所属だが、中には三種(中学男子サッカー部)で経験値を上げた生徒もいた。テクニカルな選手が多く、また学業に関しても良い結果を出している子が多い、という印象。県内全域から訪れてくれたが、中には県境を越えて参加してくれた中学生も。高校3年間をより良く過ごすための進路研究をする姿勢が大変素晴らしいと思う。そして8月には学校見学会に抱き合わせで行われる体験入部を二日間実施(8/26&27)。合計39名の参加があり、こちらも大盛況であった。8月の体験入部はもちろん経験者だけでなく初心者も多く参加し、コミュニケーションをとりながらミニゲーム大会に興じた。得点が入るたびにハイタッチで喜び合う姿はサッカーを楽しむ心を大いに感じさせてくれた。
今後、あと2回(11/5、11/26)を残すので参加者全体の経験値や地域性などの詳細な分析は後回しにするが、ここまで計50名の参加をみて、特徴的なことを二つ挙げたい。まず一つにサッカー経験者における視線の先に愛知県内が増えてきた、ということだ。これまでは〝県外(複数)or県内(一つ)〟ということを多く耳にしたのだが、今年度は特に〝県外(一つ)or県内(複数)〟というケースが増えてきたように思う。公立私立を問わず愛知県内それぞれの高校が、それぞれのステージで奮闘する姿がこういう評価、あるいは興味の矛先として実を結び始めているのではないだろうか。逆に言えば、われわれ高校各校はその期待感を受け止めて苦労し成長し続ける必要がある。もう一つの特徴は中学2年生の積極的な参加があったことである。もちろんこれまでも中2や中1から問い合わせをいただいたこともあるが、例年以上の積極性を感じる。正直言うと想定外の時期だったこともあり、内心〝ちょっと早いなぁ…〟と思ったが、そういえば高校でも同じ2年生の段階で進路先のオープンキャンパス参加など積極的に勧めている。それと同じことだと思えば、極めて自然な動きとも言える。こういった主体的な進路探しがミスマッチを減らし、中学での学習意欲などにも大きく影響するに違いない。良い兆しだと捉えよう。
8月21日に開幕した愛知県サッカー選手権(兼皇后杯県予選)。クラブ、高校、大学のカテゴリーを越えた、県No.1を決める大会。ここに照準を合わせているわけではないが、やはり一つひとつの真剣勝負には成長のチャンスが多くあると実感した。
28日、初戦はセントラル豊橋。毎年スキルフルな選手を数多く輩出する、U-15を中心とした名門クラブである。今年度、県U-15選手権で準優勝し東海大会にも出場。充実のチーム力だが特に攻撃に関するアイデアとテクニック、そしてダイナミックさは愛知県の高校と比べても上位に位置するレベルだと私は思う。試合前、楽観視出来る予想は全く存在せず、むしろ難しくなることを予想した。ただ、夏の苦労を経験した高校生の成長は、手前味噌ではあるがなかなか大したものであった。キックオフ直後から良いプレッシングを表現できた前半、口火を切ったのは右サイド。14分にりかから折り返したマイナスのセンタリングに詰めたのはしおり。見事なダイレクトシュートが決まる。25分にりか。周囲のコーチングが引き出した良い判断だった。このまま終わると後半難しくなるかな…と思った27分、しおりの見事なスルーパスにダイアゴナルランでラインを突破したれおなが追加点。前半を3得点で折り返す。後半にも3分れおな、11分しおり、25分にななかのCKがゴール前の混戦を呼び、詰めたのはれおな。気の抜けない戦いの中、6-0で初戦を勝ち抜くことができた。
9月3日、三回戦はvs南山。5カ年計画のベストメンバーで挑んでくることは間違いない。それにしても年々新しい攻撃のアイデアを、自分たちなりのキーワードとともにピッチで表現する力をつけてくる南山。部員の顔ぶれは当然毎年変わるものの、梅垣〝カニ蔵〟が確実に積み重ねていくチーム力は伝統以外の何物でもない。その野心の大きさに日々驚かされる。
この試合も前半から支配率を高めることに成功。根気よくポゼッションとシュートを継続できたこともメンタリティーの成長の証。しかしなかなかゴールを奪えなかった。前半13分、何本目かのCK。ななかの放り込んだボールに対してここまでことごとく跳ね返されてきたが、ようやく落下点を支配。一度はピンクの壁に阻まれるも、わずかなスペースの
発生を見逃さなかったのはなつき。見事な先制ゴールであった。後半に入ると、今度は安城学園のちょっとした隙をついてくる南山攻撃陣。シンプルな対応ができなくなると、それは南山のチャンスを意味する。前半に比べて苦労の多い展開が増えてしまった。ただ、こういう展開でもセットプレーで加点できる力がついてきたのは、一つの成長である。後半15分、再びCK。今度はりかが詰め切り、2-0。その後もペナルティーエリア付近まで寄られる場面があったものの、なんとかしのいでホイッスル。これで皇后杯県予選、1年ぶりのベスト8進出を決めた。
翌日4日、準々決勝。対するは愛知東邦大学。昨年度の覇者でありインカレ連続出場を誇る強豪。これまで皇后杯で県8強の壁を破れていない安城学園は連戦の疲れが多少あるものの今回こそ…の気持ちが強い。が、観客の大方の予想は東邦大学の圧勝、か。スチューデントリーガの結果(東邦大学B 2-1 安城学園)が悔しい予想を後押しする。
事前のバスミーティングで幾つかの戦略と役割を明確化した。あえて北陸遠征の苦労を思い出させる。交代カードの切り方も含めた全てのシナリオを解説。無論、現実では想定していないアクシデントも起こりうる。しかしそれですら想定内だと思えるように準備することが少しでも早く落ち着きを取り戻す材料になる。得点、失点、そして同点でのPK戦…。プランを話し終える頃、聞き入る部員は、いつ戦いの場に向かってもいい表情になっていた。
気のせいか、いつもより一層気合の入った円陣。掛け声とともに駆け出す姿に合わせたベンチの拍手も熱を帯びる。前半、キックオフ。やはり東邦大は強い。何より個の力が優れている。無駄なボールロストがない。安城学園も必死で応戦。開始2分と3分、連続して最終ラインを突破されかかったが何とか堪える。この後、中盤の守備意識がチームを救う。
攻撃に関してはなかなか手が打てなかった前半。しかし高い位置で相手の選択肢を限定する守備で後方を支える。これが大きな好影響を与えた。時折、バランスを崩しかけたが、それでもチーム一体となった戦いで前半を終える。0-0スコアレス。
後半に入り、戦いのテンポが上がる。その分、互いにミスも出始める。前半には無かった相手のビルドアップにおけるミスを逃さないアンガクFW陣。幾度か沸き立つシーンをつくる。しかし先制は東邦大。ちょっとしたパスのズレを突いてくる相手の判断の良さに対し、どうしても後手に回ってしまった。前半10分、サイドの突破を許し必死で対応するもフィニッシュを許す。0-1。先制を喜ぶ東邦大の姿に、逆に言えばここまで十分に戦えている実感を再認識する。しかし先制を許した以上、得点を目指さなくては勝利は無い。交代カードを切り、システムを変更し、得点を狙う意識をチームで共有する。チャンスは増えるがそれでもネットが揺らせない。時間は徐々に経過。おそらく観客席の大半は〝よく頑張ったけど0-1の惜敗〟を予想した。しかしピッチもベンチも全く諦めていない。むしろ気持ちとプレーは加速した。1点取ればPK戦…負けているのになぜかそんな気持ちになれたのはおそらく部員全員の気持ちが一つになっていたからだろう。そして、確信にも似た気持ちでPKに向けた交代の指示をした瞬間、東邦大がたまらずファール。直接狙うにはまだ少し遠いところ。ただ、後半29分をすでに経過する時間帯だったことも安城学園の背中を押したかもしれない。時間内では恐らくラストワンプレー。キャプテンりのが気持ちを込めて蹴り込んだ放物線がペナルティーエリアに飛び込む。私が決めるという意識を複数の選手がここまで強くもった瞬間はそう多くないだろう。その中でも冷静さを併せ持ったしおりが一瞬のブラインドを作り出す。突然降り出したひどい雨がバウンドした後のボールの動きを加速…次の瞬間、サイドネットに思いを突き刺す。…ゴール!喜びを爆発させる安城学園!絵に描いたような歓喜の輪が一気に広がる。想定していたとはいえ、ここまで劇的な展開は、まさにドラマ。数分のアディショナルタイムはPKに向けて心を落ち着かせるための時間であった。
前年度の愛知県覇者に対し、プランをもって、勇気を携えて全員で戦い抜いて1-1ドロー。PK戦で惜しくも敗れはしたが試合後の大きな拍手は安城学園を讃えているように聞こえた。3度目の県ベスト8。この一戦の内容は、勝利し続けることだけでは得られない〝一番大切なもの〟を思い出させてくれるものにもなった。
帰りは久しぶりに愛知牧場でソフトクリーム、そしてスナップ写真を撮りまくり、笑顔笑顔。翌週からのトレーニングも、間違いなく良い船出になる。