2015年2月Part2
決勝、そして卒業式。
2月14日。9年目にして初めて、そこに立つ時が来た。思えば公式戦初勝利を記録したのが創部2年目の夏。私が指導し始めてから実に17か月も掛かっている。以来、成功した経験よりも失敗した記憶の方が圧倒的に多い。しかし地道に…コツコツと…手前味噌ながら、字の如く〝一歩ずつ〟歩んできたように思う。どれだけ頑張っても勝てなかったあの頃…経験者が少し入るようになっても勝ちきれなかったあの頃…〝あの頃〟の先輩たちが諦めずに部活を続けてきたことが、今に繋がっている。新人戦決勝。私が緊張した理由は決勝の舞台だから…というだけでなく、これまでの歩みを覚えているからこそ、であった。
前日、部員にこんなことを話した。
「明日の相手は県で一番強いね(一同頷く)。誰もがそれを認めてる。観客が10人いたら…10人がカピタが勝つと予想している。心の底から応援してくれているみんなの親だって…もしかしたら…心のどこかではきっとカピタには勝負できないって思ってるよ(一同苦笑)。でも、先生は最後まで諦めない。みんなもきっと諦めない(表情真剣)。安城学園は…あきらめが悪いチームなんだ(表情緩む)。こういう試合が一番燃えるね(強く頷く)。ここまで来た自分たちを互いに信じ合って…明日…戦い抜こう」。
戦術的、戦略的なことはともかく、大会最終日まで戦う権利を得たことに改めて胸を張る、試合前夜。
当日朝、不意の渋滞に移動時間を割かれる。一瞬冷や汗をかくが車内に動揺は無い。ある部員は車窓を眺めて何やら考え込み、何人かはセットプレーの確認をする。あるいは特にマークすべき戦い方の確認作業。軽食を取りながら談笑する姿も。バックミラーから感じる空気はいつもと変わりない。誰とは言わないが、ある部員が過緊張する姿もいつも通り(笑)。
瑞穂北陸上競技場。予定より少し遅れて到着。すでに会場準備が進んでいる。そういえば去年は相当な人数で雪かきをした。高校女子の結束を高校男子指導者の方からお褒め頂いた記憶がよみがえる。今年も昨年同様の、抜かりない準備。南山女子部の高校生と中学生を筆頭に審判団の先生方、裏方を引き受けてくださった先生方、その若い衆(?)が動く姿を見つめてくれる少し(?)先輩の先生方。アップ前にはカピタ部員一同がライン際に並んで昨年同様、全ての準備に対して感謝の挨拶を大きく発声。一方のアンガクは…そこには至らず。この辺りに顧問の人間力の差、チームの成熟の差を正直感じる。ちなみに翌日のノートには2年生を中心に当日サポートへの感謝を述べる部員多数。思いを明確にして、その上で行動に移す。簡単そうに見えて意外に高いハードル。
W-UPでピッチに入ると、やはり舞い上がっているのかミスを連発する。落ち着かないのは無理もないが、アタマに来たのは1プレーごとに下を向く心。掛けあう声もどこか抜け殻のよう。これでは戦えない。ここまで勝ち上がった誇りを完全に忘れてしまっている。いつも通り、になってない。ならば、といつも通り、檄を飛ばす(笑)。これでやる気スイッチが入れば…と思いながら…。
主審永井先生(至学館)のホイッスルでキックオフ。10分くらいまではカピタにシュートを打たせなかった。冷静なマッチアップ、予測したポジショニング。クロスへの対応。全てトレーニング通り。しかしその後、カピタの猛攻に合う。連続したコーナーキックにも冷や汗。前半終わりが見えた頃にはGKと1対1、絶体絶命のシーン。しかし、それらすべての局面でゴールネットを揺らさせなかった。クリアキックのたびに…GKまいまいのファインセーブのたびに…スタジアム観客席からどよめきが起きる。途中から男子の歓声が増えてきたのは午後、同会場で実施される新人戦男子決勝(岡崎城西vs東海学園)のせいか。前半終えてスコアレス。客観的にみると個々の力量差をチームの総合力で何とか凌ぎ切った、という様相。ただ、ベンチに戻るその表情は切迫感よりも〝私たちは戦えている!〟という力強さが漲っていた。どうやらやる気スイッチは押せていたらしい。
後半のイメージ。スコアレスドローも頭の中にあったが、延長後半終了まであと35分+10分+10分=55分間、このままいくとは思えない。ならばと3つの指示を送る。攻撃視点で2つ、守備視点に1つ。
私はカピタが強くなかった時代を知らない。多田先生がゼロから始めた頃は相当苦労していたそうだ。それこそ勝利よりも敗戦の方が多い、という今では全く想像もつかない星取りだった…らしい。アンガクが初めて公式戦で対戦したのは…9年前、創部1年目の2006年総体予選リーグ。すでにチャンピオンとして君臨していたカピタニオに0-14。私が女子サッカーにこれほどのめり込んだのは、その戦いに顔をクシャクシャにして泣きながら取り組んだ1期生と2期生の姿を見たから。そして対戦相手だったカピタニオに何とか近づくことはできないか、と考え始めたことにある。何とかしてカピタの練習相手レベルに成長できないか…多田さんと昼夜を問わず交わした全ての会話…その根底にあった思いが今のアンガクをつくっている…。
後半、戦い方を少し変えてきたカピタに対応できなくなってしまった。新人戦という、まだ成熟には遠いはずの時期でありながらハーフタイムの指示に対し、アクションを的確に変えることが出来るカピタはやはり…本当に素晴らしい。対するアンガクは〝私たちは戦えている!〟という感覚が、ほんの少し慢心に変わったのかもしれない。あるいはあまりにも攻撃の時間が少なすぎて疲労の蓄積が想定以上になったのかもしれない。セットプレーを含めて3失点。ラスト10分に入り、前線からのプレスが効いたシーンも作り出せたが…実を結ばず。そして、長い笛。0-3。
悔しい敗戦に涙する部員たち…それでも意地を張って胸を張って、準優勝の表彰を受けた。県内各校の女子サッカー部員が集まった観客席からの温かい拍手に…少しはアンガクらしさも見せられたのかな、と思う。応援に来てくださった保護者、そして卒業間近の9期生の前で…創部以来最高の戦績。振り返れば今年度は総体県4位、高校選手権県3位…そして新人戦県2位、と一つずつ階段を上がってきた。これもアンガク的。
翌日15日には至学館と引退試合。思えば常に横にいた、心の友と最後の勝負。球際の厳しさは現役時代を彷彿とさせる両チーム3年生に心から敬意を表したい。至学館高校の原先生、永井先生、柴田先生、そして喜多川先生にアンガク9期生のラストゲームを準備していただいた。どれだけ感謝してもしきれない。1対1の同点で迎えたPK戦は3年生全員に蹴らせようと7人に出番がある変則レギュレーションも深い愛ゆえ(笑)。全員が緊張しつつも万感の思いで…蹴り込んだ。そして、胴上げ、写真撮影。柴田先生からサプライズプレゼントまでいただき、最高の引退試合となった。
20日、3年生に贈る会。新人戦期間中ながら練習の合間(?)に仕込んだ準備は抜かりなく、本当に楽しい会になった。毎年思うことだが、チームの力が上がったと実感するごとにこういうお楽しみ会の盛り上がりも比例する。ようは〝破れる〟ことが出来るとそこもまた認め合う瞬間になるのだ。いつもは控えめな1年生が一発芸で場を盛り上げ、2年生は7番勝負という新機軸(笑)で3年生を主役に引き出してくる。リズムに乗って披露されたあいうえお作文では9期生7人を気持ち悪いくらいに持ち上げ、最後は心のこもった歌で3年生の涙を誘った。テーブルには現役部員(のお母さん<(_ _)>)が頑張って作った料理の数々も…。毎年美味しさが増すこの料理をみるにつけ、保護者の温かい気持ちに感謝しっぱなしである。長い宴が終わって…独りひっそりと手紙に目を通す…。3年生の思いが詰まった一言一言…全ての時間が鮮明に思い出される、至福のひととき。
2月21日、卒業式。警備の都合で初めて式には参加できず…。警備を終えて寂しいなぁ…と思いながら職員室にいるとふたかなが呼びに来てくれた…「ん?どうしたぁ?」とか言いながら内心、すこぶる喜んだナカノであった。引きずられるように3年校舎に。そして本当に最後の…集合写真。
「ふたかな!ちはる!あゆみ!きゃら!あだま!なつみ!ゆあ!
卒業おめでとう。9期生はアンガクの誇りです。
君たちと関われて本当に良かった…。
またグランドで…多目的で…第2で…待ってますよ!」中野先生より