2014年11月

9期生、この日のために。

11月1日。高校選手権準決勝。聖カピタニオ。
この試合にかける思いは改めて書く必要が無いほど。誰もがそれを分かっている。相手が愛知県のチャンピオンチームだから、だけではなくこれまで一度も勝利していないカピタニオだから、なのかも知れない。近づくほど、その背中の大きさがクッキリと見えてくる。だからこそ、そこに真っ向から勝負を挑みたい。無論、東海大会に行きたい。出来ることなら全国に行きたい。しかしそれと同じくらい大きな目標として…カピタに勝ちたい。
悪天候の中、会場の春日井商業高校に到着。キックオフの2時間半前、春商部員の姿があった。変わらず降りしきる雨の中、ずぶぬれになりながら両手でラインカーから石灰をすくい出し、文字通り一歩ずつラインを引いてくれている。念入りに準備された、いつもより少しだけ太く真っ白なラインは試合時間が経過し、ボールが転がらない状態になっても見えなくなることは全くなかった。まさに魂のこもった作業。春商部員には本当に頭が下がる。会場校としてのプライドを垣間見たシーン。

定刻通り1時半、キックオフ。前半開始直後からアンガクゴールにカピタが襲いかかる。ピッチ状態の悪さに上手く対応できないアンガクと違い、順応がとてつもなく早いカピタニオ。全く大げさではなく、開始5分…いや、3分で勝負が決してしまう可能性すらあった。しかしそこでゴールを割らせない気迫をみせたのは主将のゆきよだった。2度3度4度と小さな体を思い切り投げ出し、足先ギリギリで相手の力強いシュートを防ぐ。周囲もそれに応えないはずがない。10分も経つ頃にはカピタニオの圧力をセンターラインまで押し返すことに成功した。

この試合に向けて、創部以来初めて千羽鶴が折られた。2年生と1年生から、3年生へのプレゼント。マイクロバスで贈られたそれを手に、驚きと喜びを隠さない3年生。満面の笑みであるいは嬌声を上げて、代わる代わる写真を撮りあう。千羽鶴で、思いがさらに結束した。

このゲームに入る一週間、今まで取り組んだチーム戦術、グループ戦術のなかから、どこに主眼を置いて戦いを挑むか…という点に最も苦慮した。7月のリーグ戦では前半スコアレスも1-2で惜敗。それなりに達成感を味わった試合ではあった。しかしその7月の映像を改めて見返すと、逆に今のカピタの進化が際立つ。とはいえアンガクも数多の真剣勝負を通じて、これまでにないほど成長してきた自負もある。どう戦うか…どうやって勝利を目指すのか…決断したのは三日前。流れを感じながら戦う、決して守備一辺倒にはしない戦術でいくことをチームで宣言。トップチームメンバーのちょっと嬉しそうな、でも覚悟を決めたような表情を、こうして独り言を書いている今も思い出す。

正直言って一進一退という展開ではなかった。3回か4回攻め込まれて、時々くさびを打ち込み速攻を仕掛ける。しかしアンガクがそこに賭ける気持ちは強い。あわよくば、というテンポで迫ることも出来た。だがゴールネットは揺らせず。グランドでは1個のボールを熱く奪い合い、ぬかるみに足を取られて転倒する互いの選手の姿が。魂のぶつかり合い。目一杯で文字通り激突しながら、しかしどこまでもフェアプレー。前半35分終えてスコアレスドロー。想定内で2番目に良い結果。

ベンチに戻ってきた選手の表情を見る。あるいは部員同士で交わされている言葉に耳を傾ける。ゆあはいつも通り、私の真横でとっていた自筆のメモから、ピックアップすべきキーワードを該当する選手にコンパクトに伝えている。悪くない。いつも通りの雰囲気。守備面でケアすべき要点と、このグランドコンディションにどう向き合いチャンスを窺うべきか、という至極シンプルなコメント。そして出過ぎているアドレナリンを一旦抑え込み再度モチベーションを上げ、後半のピッチへ。

コミュニケーションは発信するだけでなく相手(=受信者)の〝呼応性〟を感じ取ることが重要だと私は思う。何を問われて、どうリアクションするのか。そのリアクションで心の在り様がみえる。この日のアンガクメンバーの〝呼応性〟は、見事だった。これまで過ごしてきた時間と経験に確信をもち、仲間を信頼しきっているときにしか表現できないレベル。本当に、心地よい反応。

後半4分。カピタのゴールネットを揺さぶる。先制。観客はどよめき、部員の喜びが爆発する。決めたのはふたかな。周囲よりちょっと上手いパサー、でしか無かった彼女が縦に抜けるテンポアップを学んでからチームの得点力と展開力は飛躍的に伸びた。そのふたかなのゴールに沸くアンガク。「よし!東海行くぞ!!」。創部以来、最も〝次のステージ〟が近づいた瞬間。
後半6分。隙を見せたつもりは毛頭ない。瞬間的なひらめきとそこで駆使すべきスキルをもっているか否か。悔しいが相手の方が上手(うわて)だった。個に対してほとんどスペースを与えていないにも関わらず美しいミドルを被弾。数分後に再び同じシーン。1-2。

得点で優位に立った時のカピタは本当に強いと思う。まさに威風堂々。あの、隙の無さは見習いたい。もちろん対戦相手としてはそこを打ち崩したいし、ゴールをこじ開けるチーム力を付けたいと思う…。
何度も何度も抗った試合も、前掛かりになった分、さらに相手にスペースを与えてしまったのかもしれない。悔しいが追加点を献上。1-3。そして、ゲームセットのホイッスル…。目指した東海大会出場が…県ファイナリストになる目標が…そしてカピタに勝つということが…、出来なかった。

2大会連続で県ベスト4は素晴らしい。しかし選手たちにどんな労いの言葉をかけても、どれだけ気丈に振る舞おうとも、目標が潰えた心は悔しさだけで満たされてしまう。溢れる悔し涙を抑えることはできなかった。それでも帰りのマイクロバスではカピタとの激戦を、いつも通りビデオで振り返りたいと部員がいう。何が出来なかったのか。何が出来たのか。近づけた部分と力不足の部分。部員から出てきた非情な貪欲さは、いつしかこの悔しさを覆すエネルギーになる。マイクロバスのハンドルを握りながらそう感じ始めると、翌日おこなわれる3位決定戦の前に、部員に大切な話をする決心がついた。

一夜明けて11月2日。三位決定戦。
前日のぬかるんだグランドでの疲労はそう簡単には抜け落ちてくれない。数人は全身が筋肉痛状態だという。それでも表情は幾分明るくみえた。悔しさを押し殺して前を向こうとする気概、かも知れない。連日の春日井商業グランドに到着して早々、全員を集めて話をした。
「今年の…9期生のチームはすべての歴史を塗り替えてくれました…ここまでのすべての大会、すべての試合…本当に頑張り抜いたと思います…ここまで頑張った3年生…9期生だからこそ、引退への日々は、明確に、鮮やかにしていきたい、と先生は考えています…。3年生と一緒に試合が出来るのは…あと130分にします。まず今日の3位決定戦…前後半で70分…、そして高校リーグの最終節…これが60分…」。一言ひとこと、話すたびに後輩の顔が歪む。涙をこらえて下を向く。3年生は前を見据えて…大きく息を吐く。「今日のゲームもいつも通り。ミスも含めて、安城学園らしく、プレーしていこう。今日も真剣に楽しもう」。

負けた後に行わなくてはいけない3位決定戦はつらい。しかし本当につらいのはピッチに立つ選手であり、それを支える控えやマネージャーだ。私の心にあった情けない気持ちを、9期生中心に軽々と、そして爽やかに吹き飛ばしてくれる試合内容だった。対戦相手は至学館。失われない向上心と常にグッドゲームを目指す心意気をもつ好敵手。実は私自身のモチベーションを上げてくれたのは3決に全力で挑みます、と前日に電話で話してくれた至学館の永井先生と柴田先生であった。こういう仲間に恵まれて、私は本当に嬉しい。
前半立ち上がりにFKを直接決められるも、直後に同点弾。後半に追加点を挙げ、3-1でフィニッシュ。前回大会(県総体予選)より一つ上、高体連トーナメントではチーム史上最高位となる第3位で今大会を終えることとなった。賞状を受け取り、少し間をおいて、どちらからともなく至学館と安城学園の合同集合写真。認め合う間柄だからこそ、生まれた瞬間。

11月9日。県高校リーグ1部最終節。vs小坂井高校。9期生、引退試合。
後輩たちは皆、一瞬でも先輩と同じピッチに立ちたい、一緒にプレーしたいと願っていた。そんな思いを胸に抱きながらグッとこらえて、いつも通り(を装って)ウォーミングアップ。この日ぐらいは…と思っていたが、あいにくの雨模様。ボールが転がらないね、と苦笑いを浮かべる3年生。そんな表情すら60分後のお別れを思うと…何だか切なくなる。

それにしても、3年生は最後まで本当に素晴らしかった。ハーフタイムにはいままでと全く同じように(全く感傷的にならず!)前半の反省と後半に向けた修正を話し合っているのだ!ラストゲームなのに!!常々言っている〝引退ゲームのラスト1分まで成長し続けましょう〟という言葉を実にしっかり守ってくれている。私が言うべき言葉は、一つだけでいい。「最後まで、安城学園らしく。真剣に、楽しんでいこう」。

スコアは6-0。しおりの2得点にあゆみ、ふたかな、はるか、ほのか。いろんな選手がネットを揺らしたことも実にアンガク的であった。交代でピッチを後にする後輩部員には思い余って涙する選手も。ベンチに退いた後輩たちも皆立ち上がって声援を送る。終了間際には念願だった秘密兵器ゆあも投入。右サイドで華麗なプレーを披露してくれた。そして…試合終了。9期生、3年生7人全員が笑顔のハイタッチで見事に引退試合を締めくくった。

この日、嬉しかったのは安城学園の何人もの生徒がわざわざ応援に来てくれたことだ。最近は色々な生徒がよく来てくれているが、これも3年生の人望の厚さを物語る。来てくださった保護者含めて、この日の部員全員の力になったことは言うまでもない。
さらに。クールダウンも終わり、一息つきかけた頃、現主将のゆきよが応援に来てくれた一人ひとりに丁寧にお礼を言って回り、頭を下げている姿を偶然目にした。自分なりに考えて行動に移す。〝サッカーを学ぶ。サッカーで学ぶ〟。女子サッカー部を通じて成長する姿は、すでに9期生から10期生が受け継いでいた。そのことをとても嬉しく思う。

帰りのマイクロバス車内はラジオが故障(?)。運転手の私を居眠りさせてはいけない、とカラオケ大会で大いに盛り上がった。これもアンガク的(笑)。

15日は東海大会視察兼愛知代表(カピ&椙お疲れ様でした!)の応援で三重へ。そして16日は新チーム初めてのゲーム。立ち上げ初戦がプリンセスリーグとは何たる贅沢。対南山、1-1のドロー。手応え大いにあり、課題も沢山あり(苦笑)。これからも焦らずコツコツ。練習が全て。改めて、〝強くて、魅力的で、やりがいのあるサッカー〟を目指して…。